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名古屋高等裁判所 昭和51年(ラ)67号 決定 1976年5月17日

抗告人

山岸竹吉

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一抗告人は原決定を取消すとの裁判を求め、その理由とするところは別紙のとおりである。

二当裁判所の判断。

(一)  抗告理由一は、要するに、本件破産廃止の申立につき、届出総債権者の同意がないとした原決定の判断が違法であるというのである。

記録によれば、抗告人の本件破産廃止の申立につき、債権届出をした債権者のうち債権者内一商事株式会社、同岐阜市農業協同組合及び同安達芳子をのぞくその余の破産債権者らは同意していること、債権者内一商事株式会社及び同岐阜市農業協同組合は別除権者であり原審における債権者集会においては議決権を行使できなかつた者であることが認められる。

ところで別除権者は破産手続によらないで債権の行使をすることができ、別除権の行使によつて弁済を受けることのできない債権額についてのみ破産債権者としてその権利を行使できるものであるが、右内一商事及び岐阜市農協の両別除権者においてはその別除権の行使によつて弁済を受けることのできない債権額につき立証がないのであるから、前記二名の別除権者は、破産法三四七条一項にいう破産債権者に該当しないものと解するのが相当である。従つて本件破産廃止の申立について同意しないのは破産債権者安達芳子ただ一人ではあるが、これに同意しない者がいる以上破産法三四七条一項前段の要件は欠くものというほかなく、抗告人の右主張は理由がない。

(二)  次に、抗告人は同意をしない破産債権者安達芳子に対しては、同意した総債権者の同意を得て、破産財団から担保を供した旨を主張しているが、この担保の具体的内容については何らの主張も立証もしていない。

ところで破産法三四七条一項後段において、破産廃止に同意しない債権者に対して担保の提供を要求している理由は、いわゆる同意廃止に反対の破産債権者の保護にあるものということができるから、その担保物件の種類数額を具体的に特定明示しなければならないものと解するのが相当である。

従つて本件破産廃止の申立は、破産法三四七条一項後段の申立としても不適法というほかなく、抗告人の右主張も理由がない。

なお抗告人は右の担保は裁判所において決定すべきものである旨を主張するが、右のように解すべき根拠は全く存しない。

(三)  よって、本件破産廃止の申立は不適法であるから、これを却下した原決定は相当であり、本件抗告は理由がないからこれを棄却し、抗告費用は抗告人に負担させることとして、主文のとおり決定する。

(丸山武夫 杉山忠雄 高橋爽一郎)

抗告の理由

一、却下決定の第一理由に債権届出期間内に届出をした総破産債権者について破産廃止の同意を得た書面がないとしているが、破産者の提出した破産廃止申立書には、債権者の破産廃止同意書は添付してある通りである(法令による書面形式がない。)。債権者の内岐阜市農業協同組合並に内一商事については第一回破産債権者集会に於て、別除権の行履に依つて債権確保が満されるとして、破産債権者集会より除外決議がなされている。破産財団上に先取得権を有して居り過去のいきさつからして破産廃止に同意する筈もないし同意しないからといつて改めて財団財産上に担保を供する必要性は全くない。

二、却下決定の第二理由に破産廃止に不同意の債権者に対し他の破産債権者の同意を得て財団より担保を供すべきところ担保の種類、数量又は金額を明示した書面がないとしているが、破産廃止に同意を得られない安達芳子に対しては、債権者の破産放棄同意書に明記してある通り「財団財産上に相当なる担保を附することに同意する。」と明記されている。

財団財産上に担保を附するのであるから、現に財団財産が評価されていない現在破産者並に破産廃止に同意する債権者が一方的に種類、数量金額を明示しても、不同意の安達芳子が納得するや否や不確定であるから、裁判所の判断に一任しているのである(裁判所が安達芳子、破産者、同意債権者の意見を聴取されて決定されるべきである。)。

三、却下決定の第三理由に、形式的要件を欠くとされているが、前二点につき申立書は適法なものであつて正当なる破産債権者の殆んどが、破産廃止に同意している現実につき、不同意債権者に対する提供担保については、関係人の意見を聴取して裁判所に於て決定されるべきである。

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